マクラメは結びの手芸です。と言ってもマクラメ編みという言葉も見かけますし、結ぶと言ってもミサンガは織物のようでもあります。
普段はあまり考えない「結ぶ」「編む」「織る」の違いについて触れたいと思います。
ずっとずっと昔の人々が何か着るものを必要とした時、最初は毛皮や植物の葉・皮を利用したと考えられます。それらを体に巻き付けるだけだったものが、やがて植物の繊維と骨などで作った針を使ってつなぎ合わせ、衣服の用途に適した形に仕立てるようになったと思われます。その後、そのままの植物の繊維では短いことから、かいこ、羊など動物からとれる繊維を紡いで糸にし、糸を用いて平面の布地を作り、より快適で機能的な衣服が作られるようになりました。
このように糸から布地を作る方法のうち、最も原始的なのは「絡める」という方法です。羊の毛を絡ませて作るフェルトは現代でもなじみ深いですね。
編む、というのはセーターなど毛糸の編み物に代表されるように、1本の長い糸を用い、ループにループを絡ませて横方向に繋いで平面を作ります。増やし目、減らし目などにより様々な形のものを作ることができ、終わりの糸を引っ張って解くことができるのも特徴です。伸縮性や通気性に富んだ布地になります。
織る、というのは多数のたて糸の間に1本のよこ糸(多数のこともある)を上下にくぐらせ直角に交差させることで平面を構成する技法です。普通は四角い形になるので、衣服にする際には裁断し縫製しなければなりません。糸の素材により様々な性質を持つ布地を作ることができます。多くの糸を人の手でスムーズに扱うのは難しいため、織機を用いて作られます。織機は人類が考え出した最初の機械ともいわれています。
さて、肝心の「結ぶ」は『進行方向を変え回転しながら一度戻ってからみ、結び目を作る』という方法です。太古の昔、植物の蔓や繊維を結ぶことで狩猟用の道具や漁網を作り役立てたと考えられ、ひとの手だけでできる単純で原初的なテクニックと言えます。結び目の間隔の変えることで目の詰まった布地から目の粗い網状のものまで様々な平面を作ることができます。また、沖縄の藁算のように結び目を数の計数に利用したりもし、結びは生活の中で様々に使われていきました。
日本では結びには呪術的な意味合いもあり、神道、仏教、礼法などとともに装飾的なものに発展していきます。正月のしめ縄飾りや水引は今日でも馴染みのある結びの例ですね。西洋では主に航海で用いるロープ結びから結びの文化が発展したと考えられ、マクラメの語源となったアラビア語のムカラム(migramah)は交差して結ぶという意味合いがあります。
このように「結ぶ」は「編む」「織る」と同じように糸を使った手工芸ですが、どちらの技法とも違うことがお判りいただけましたでしょうか。マクラメは原初的な技法から始まり、より装飾的により個性的にと、独自の進化を遂げた『結び』の技なのです。
それにしても、植物や動物から取り出した1本の細く短い繊維を、紡ぎ合わせて糸にし、様々なテクニックで平面を作って身の回りの実用品をこしらえ、装飾品としても発展させてきた先人の知恵には感嘆してしまいますね!
(参考文献:『結ぶ・編む・組む・織る・繍う~絵を見てわかる糸の手仕事』石井照子・多田牧子・山村明子 共著/建帛社)
コメントをお書きください